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東京国際文芸フェスティバルレポート(後半その①) 3月5日 セス・フリード×藤井光

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ということで、文芸フェスティバルのレポート後半その①です。
書いてみたらボリュームがありすぎだったので二回に分けます。

今回は、3月5日に東大で行われたセス・フリード×藤井光/スティーブ・エリクソン×古川日出男の豪華な講演に行ってきました。司会は柴田元幸。文芸指数が今回も振りきれてます。(文芸指数?)

ろくな写真を撮らなかったことをメッチャ後悔してます。これは講演が行われた東大校舎の写真。

◆セス・フリード×藤井光 

オープニングでも刺激のあるお話をたくさん聞かせてくれたセスと藤井さんのコンビ再び。今回はセスの著作『大いなる不満』を主軸に、セスの考える創作や、物語との距離について、チャーミングな笑顔を振りまきながら話してくれました。

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)

大いなる不満 (新潮クレスト・ブックス)

 

 

・セス・フリード来歴&影響を受けた作家たち

現在のアメリカ文学は創作科出身の作家がメインストリームとなっていて、セスもその一人。エリクソンカリフォルニア大学の創作科で教鞭を執っています。

アメリカ文学における創作科の話は弊ブログ大人気コーナー(自称)「渦巻きヒッチハイク」のマヌエル・ゴンザレスの回でも触れているので良かったら是非。

セスの作品は、リアリズムとは距離を置いた設定が多くて、時代も距離も現実と大きく離れたところに舞台を据えるのが特徴的。セス曰く「リアリスティックなものも幻想文学も、どちらも現実そのものにたどり着くための道筋」。これにはものすごく同意!「フィクションだ」「現実味がない」というだけで物語を遠ざける人たちも多いけれど、フィクションこそが現実をしっかり見据えるためのメガネのようなものだと私は思っています。

彼が影響を受けた作家は、ミルハウザーカルヴィーノカフカなど。彼らの作品に共通しているのは、「こんなものも小説になりうるんだ!(笑)」ていうところ。断片的な思考、プロットのなさ、凄惨なのに笑ってしまうところなんかが大いに作品に影響を与えているそう。

・『大いなる不満』大解剖!

そして、訳者の藤井光さんによるナビゲートで『大いなる不満』収録作を順を追って、セス本人によるコメントも交えて紹介していくという読者垂涎のコーナー。

藤井さんによるとセスの作品に出てくるのは「残念な人たち」。考えていることと実際にやっていることのギャップが大きくて、「これは・・・笑うとこなのかな?」と最初に読んだ時は思ったそう。そして「登場人物が全然成長しない(笑)」。最後まで読んで、「コレは笑っていいんだ」と納得したということなんだけど、これは私もすごく共感。セスの作品は、通じてとても静かで淡々とした筆致。なのに、真顔でとんでもないことを言い出したりするのがとてもおかしくて、だからこそハッとさせられることも多かった。
なんせ大ボリュームなので全部は書ききれないけれど、印象深かったものをいくつか紹介します。

「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」Frost Mountain Picnic massacre

フロスト・マウンテンで開かれる大規模なピクニックでは毎年大虐殺が起こる。人々は凄惨な死に方をしてゆき、慈悲も何もない。それなのに、ピクニックは毎年開催され、参加者も絶えないというお話。前述した「凄惨なのに笑ってしまう」のが特徴でもある作品。「酷いことが繰り返されるうちに笑うしかなくなってくる」というのがテーマ。この作品を書き始めたのは2006年、銃による事件が多発していてもう「笑うしかない」状況だったのが創作の背景にあるとのこと。
この作品は私にとって「セスの作品を人に勧めるならまずはコレ!」というくらい印象深いもの。静かに繰り返される暴力とその裏にある「笑い」のバランスが見事な作品です。

「ハーレムでの生活」Life in the Harem

藤井さん曰く「女性には大人気、男性はこの作品に触れるのを何故か避ける」という作品(笑)。私もこの作品、大好きです。

この作品は、醜男が王様が抱える美男美女は勿論、身体欠損のあるニンゲンたちをも集めたハーレムに突然放り込まれて、自分の欲望と王の欲望に対峙してもみくちゃになっていく姿を描いたもの。セスはこの作品を「自分が抱えていない問題を描くことでその問題を食い物にしているという居心地の悪さに対して作家としての社会的責任を負い、白人男性であるという視点から離れずに書いたつもり」とのこと。欲望と向き合うことって、道理では切り捨てられないモヤモヤしたものがあるけれど、そのモヤモヤがきちんと作品に昇華されています。

「征服者の惨めさ」The Misery of the Conquistador

私は『大いなる不満』の中でこれが一番好き!「プロットがない作品。社会的構築物であるお金が主題、お金を沢山持っていることがその人の価値になる世界に関しての話で、一番感情がこもっている作品」とセス。繰り返される「鬱蒼とした森で、私は女を殺す」というフレーズが独特なリズムを伴って、暗く静かな森のなかでの暴力のイメージを喚起する作品。この繰り返しと断片的なイメージの応酬が少しベケットに似ている気もしたなあ。

最後にセスと藤井さんによる「微小生物集 ー若き科学者のための新種生物案内」から「ソニタム」の朗読。

質疑応答では、「渦巻きヒッチハイク」でお馴染みのコから始まりパで終わる名前の人が藤井さんに質問を!

藤井さん翻訳する作品は、比較的日本ではマイナーな作家が多いけれど、翻訳する作品を選ぶのに何か基準のようなものがあるのか?という質問に対して藤井さんは「実際に自分が読んでみて、何ヶ月も心に残っているもの。セスの作品も本国ではAmazonレビューが11件しかなかったけれど(笑)、ずっと心に残り続けていた。注目はされていなくても、そういう作品を見つけると「コレは自分の仕事だ・・・!」と思います(笑)」とのこと。

また、セスの新作はなんと初の長編でタイトルは『メトロポリス』。ディストピアSFっぽい作品のようす。藤井さんは目下原稿を読んでいるそうで、これも翻訳が出るのが楽しみです。

海外文学翻訳界の若き旗手であるところの藤井さん、このたび単著が発売になったようです。(みんなたち、絶対に読んでいくぞ) 

以上、文芸フェスレポ:セス・フリード×藤井光編でした。長くてすみません。
次回は文芸フェスレポついに最終回。いよいよ大巨匠・スティーヴ・エリクソンの登場だ!刮目せよ!