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渦巻きヒッチハイク 第三夜『23000』ウラジーミル・ソローキン

23000: 氷三部作3 (氷三部作 3)  f:id:yoiyoRu:20160822145609j:plain

[あらすじ]

冷たい氷のハンマーで胸を殴られ、「真の名」に目覚めていく金髪・碧眼の者たち。
21世紀初頭のモスクワで暗躍する謎のカルト組織〈兄弟団〉の目的は?
世界中に散らばったその仲間達、総勢2万3000人。彼らが一堂に集結した時、一体何が起こるのか?
鍵を握るのは「誘拐される幼児」「コギャル好きの暗殺者」、そして結束を始めた「被害者」たち・・・

現代ロシアが誇る怪物級作家・ウラジーミル・ソローキンの最新邦訳作であり、『氷』『ブロの道』に続く"氷三部作"完結編。満を持して渦巻ヒッチハイクに登場!

2016.7 河出書房新社

 

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain こんばんは!みなさま良い夜すごしてますか。ヨイヨルです。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 「心臓〈こころ〉・・・・・  心臓〈こころ〉が・・・・・・」

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain ん?なにやらコパさんの様子が。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 「心臓〈こころ〉で!語れ!!心臓〈こころ〉で!語れ!!」

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain ガシャーン!ドゴォ!! 「名を名乗れ!!自身の名を!!」

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 「心臓〈こころ〉が・・・・・・  泣いている・・・・・・?」

キラキラキラキラ・・・・・・

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain「コパァ・・・!」

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain はい、ということでお久しぶりです!暴力と狂気の文学対談シリーズ、渦巻きヒッチハイク。今回もお相手はわたくしヨイヨル(暴力担当)と!

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain コパさんアートブック(狂気担当)の提供でお送りします。

 

■祝!氷三部作、完結!! 

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 寸劇は終わったかな?じゃあいつもどおりばしっと紹介頼むよ、ヨイヨルくん。今日はなんだっけ、ゼイディー・スミス『美について』だっけ?

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain やめて!膝に矢が!膝に矢が!

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain ゼイディー・スミスについては、色んなことを学ばせていただきましたね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 本当に勉強になりました(泣)。えっと、今回取り上げるのはソローキン「氷三部作」の完結編、『23000』です。3部作なんですけど、この3部作、執筆の時系列との関係がやや複雑で。

2015年初頭に『氷 氷三部作 2』がでて、そのあと『ブロの道 氷三部作 1』、そして『23000 氷三部作 3』で完結を迎えました。いきなり2から邦訳されたので出たときはやや混乱しましたね。河出、大丈夫か?ちゃんと完結まで走れるのか?と不安でしかたがなかった・・・。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain どうでした、ついに完結でしたけど。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain いや〜、氷三部作はいままでの作品と比べるとエンタメにかなりステ振りしてて読みやすさが段違いでしたね。うんちも食べてないし。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain いきなり暴力的に汚いことを言うね。さすが暴力担当です。
たしかに一言で言うととってもエンタメでしたね!飛浩隆のコメントの通り。この帯なんだかいいんですよね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 飛先生のは良かったよね。「ブロック・バスターやんけ!」ってまさにその通り。

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f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain まずはかんたんに著者紹介いいですか、ヨイヨルさん。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain えーと、ソローキンは1955年生まれ、モスクワ育ち。70年代はコンセプチュアルアートなどの前衛芸術運動に参加していて、この頃は本の装丁などを手掛けるデザイナーだったそう。小説家としてのデビューは85年の長編『行列』(まだ邦訳はされていません。泣)、この作品が多くの言語に翻訳されて流通したのもあって、欧米で人気が出てきたんだよね。

一方本国ロシアでは、ペレストロイカ時代の検閲なんかの影響もあって、ソローキンの過激な作品は世に出回るのが遅かったみたいだけど、いまやブッカー賞にもノミネートされている、もう国際的な超売れっ子作家です。あと顔が良い。

 

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain スゴイ!コピペっぽい解説が挿入されてきた!その調子で亀山さんに呼ばれて外語大にいた下りも頼むよ。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain わ〜バレてる。そうそう、亀山先生に誘われて、ソローキンはなんと一時期東京外語大で先生をやっていて、吉祥寺に住んでたんだよね。中央線沿線はやはり国内外問わず文学徒の聖地だったわけか・・・。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain ロシア作家にありがちな、ペレストロイカ後にようやく陽の目を見た作家なのでベテラン作家だよね。
誰かが言ってたんだけど、ロシアの作家が売れるには2回売れなけきゃいけないんですよね。ペレストロイカ前と、ペレストロイカ後と。誰かは忘れました。てかこれロシアじゃなかったかも。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 相変わらず海馬が仕事してないね。

 

■あふれでるソローキンへの愛

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain もうね、そもそも我々は以前からソローキン大好きなんですよね。ヨイヨルさんは全部買ってますよね。

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※日本で出版されているソローキン全著作早稲田文学ソローキン来日回。右から刊行順。『青い脂』だけ早稲田文学で読んでたので文庫をあとから買っています。(ヨ)

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 全部新刊で買ってるよね。愛してるから。私のカネでいい思いしてほしいから。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 特にここで紹介したいのは、98年に国書刊行会からでた『ロマン』ですね。これがもうとんでもないブツでした。大ヒットした『青い脂』以前からソローキンを追っていた人は、みんなこれでぶっ飛んだんじゃないかな。

簡単に紹介したいんだけど、あらすじはまぁちょっと言えない小説で。ただ読書体験としては唯一無二、後にも先にもこれだけのものがあるっていう感じです。ものすごく実験的で。現代アーティストなんですよね。このころのソローキンは。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain THE・帯でネタバレ代表作こと『ロマン』ね!私も『青い脂』でなんじゃこりゃスゲー怪物がいるなと思って『ロマン』読んでみたらもう大変なことに。大変なことになってたわけで。(大切なことなので二回)
※帯(しかも背表紙の部分)でネタバレしてるので上の写真からは帯外してますけど、本屋では普通についてるのでネタバレが気になる方はお気をつけください。

本編ぶっ飛んでてすっばらしいんですけど、なんせ帯もジャケもひどいっていう(笑)。

 寄ってるだけだからね。2巻目。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain これほんと何の意味あるんだろ。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 最初は田舎の素朴な若い二人の恋、そして結婚式での楽しいどんちゃん騒ぎを描いてるザ・ロシアンラブストーリー・・・だと思ってました。2巻の254ページくらいまでは。これが日本で出た初のソローキンだもんな。さすが国書刊行会。度胸ある。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 『ロマン』ばっかりは読んでみてもらうのが一番ですよね。ぼくは読み終わった後すぐ夜道を駆け出しました。興奮しすぎて。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 続いて『』。これは『ロマン』刊行の翌年、99年に出た短編集。これまたジャケのダサさがウリの、日本では唯一刊行されているソローキンの短編集ですね。『愛』もソローキン味を思う存分堪能できる作品集なので食事時に読むのがおすすめかな。結構濃密です。短編集はまだこの一冊しか出てないから、他のも読んでみたいですね。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 一点訂正すると、食事時にはぜったいに読まない方がいいと思います。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain で、そのあとは日本国民全員が買っている『青い脂』でしょ。これのあらすじとかはもういいよね。で、『親衛隊士の日』。えっと・・・この子は、知らない子、ですね・・・?コパさん知ってる?

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 思い出したくもないですね。正直イマイチなのでとばしていいんじゃないですか?

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain ウッ。過去の著作を振り返ってみると、それぞれ根底にはソローキンみがあるにせよ、それぞれ結構違った作風なんだよね。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain だから、「氷」3部作は、文体的な意味ではホントはなんでも書けちゃう天才・ソローキンがついにエンタメを書いた!っていうことなんです。

 

■氷のカルト集団の目的って??

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain で、『氷』『ブロの道』『23000』と氷三部作として書かれたわけだけど。あらすじにも書きましたが、おもに起こっていることは金髪碧眼の謎のカルト集団たちのワールドワイドな仲間集め。部によって組織の始祖であるブロの視点だったり、被害者視点だったり、サスペンス調だったり黙示録調だったり、さすがのふり幅を見せてきましたね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 最終巻『23000』は氷のハンマーで殴られたにも関わらず、「目覚めなかった」人たち、通称「死に損ないの雌犬たち」が光の兄弟たちに殺された肉親たちの仇を討つべく、彼らの秘密を探りに行くという冒険活劇。で合ってるよね?

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain そう、『23000』は一番線的なストーリーが展開されて、サスペンスフルでとても面白かった。コギャル好きの暗殺者編は、舞台が東京だったりもするし。そもそもコギャル好きの暗殺者ってなんだよ。

で、三部作通じて読者に問いかけられるのが、「この組織、いったいなにやってんの??」ってことなんですけど。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain コギャルのシーンはさすが親日!という感じでしたね。
そうそう、そもそも金髪集団の来歴と目的がよくわかんない。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 政治的目的でもなければ単純な異端の神への信仰でもないんだよね。

自分なりに考えてみたんだけど、この組織としての兄弟団が特徴的なのは、「説得」と「論理」の集合体ではなくて、「直感」と「暴力」だけによる組織化を行うところだと思う。

金髪碧眼の人たちは、みんな市井の人々。それが、いきなりとっつかまって、胸を氷のハンマーで殴ったらカルト組織の兄弟として〈目覚め〉ていく。こんな組織のつくりかたったらないよ。

ナチスムッソリーニスターリン・・・。二十世紀のファシズムを用意した国家組織が少なからず思想的な論理を背景にしていたのに対して、兄弟団のオルグ(勧誘)の仕方はすべてムチャクチャ。「心臓を叩けば・人智を超える」という、暴力からのいっせーのーせの飛躍なんだよ。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain それもう物語の核心じゃん。核心アートブックじゃん。論理が暴力や直感みたいな感覚的なものにすり替わってるってことなのか。なのか・・・!?

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 核心アートブックなので続けるね。つまりこれって、学生闘争時代に「ゲバ棒で殴れば人は正しい共産主義者になる」と思っている末端成員と同じ論理。

最初は「氷のハンマーってなんだよ笑」って思うのだけど、その「なんだよ」と感じることこそがポイントで。ウケるんだけど笑いどころではなく、読むごとにものすごく現代的なメタファーだと思ってきた。こういう政治的動員に「正しさ」「理性」「知識」が必要なくなった世界を描いているんですよね。哲学の伝統に照らせば、「主知主義」と「主情主義」の対立。ソローキンもこの作品を「主知主義への挑戦」みたいなことさらっと言ってるしね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 光の兄弟たちが言ってるのって、「心臓<こころ>で語れ!」「心臓<こころ>で触れろ!」とかで、もうそこにはなんの論理的根拠もないものね。てか知性がない。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 知を媒介にしない、感情的で暴力的な〈別の世界〉参加への動員、ってトランプしかりヘイトスピーチしかり、いやーな感じで見たことのある風景な気がしてきませんか。ホラ。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain そっか、氷の兄弟たちから感じた既視感はそれだったんだ!!超納得。アンド鳥肌。現実じゃんこれ・・・

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 『青い脂』なんかの表面的な筆致だけみると、やたら軽快で(下品で)意味不明でポストモダンな作家とも読めるのだけど、だとやっぱり集権的な社会構造というものについて考えざるを得なかったロシアらしい芯のある作家、しかもとても現代的なアップデートがされている感じがする。いくらエンタメに寄ったとしてもソローキン、一筋縄ではいかなかった・・・。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 現代のネットとかのガジェットも作品中で多用されてたしね。今作だと「肉機械」「鉄機械」なんて言葉を使いなが社会構造を単純化して羅列していくのも笑っちゃうのと同時に、なんかいやな汗をかいてしまうよね。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 最終巻のラストは三部作の最後を飾るにふさわしい素晴らしいスケールの場面が描かれます。そこについて解説の松下さんは「和解」と書いていたけれど、ラストはそう読まなくてもいいと思う。オープンエンドだとは思うけどね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain ラストは私も「和解」とは読まなかったな。強烈な皮肉かつ、また同じようなことが繰り返されるんだという、恐怖が大きかった。大きかったんだけど、ラストのセリフがもはやギャグだったから、やっぱりちょっと笑っちゃった。

■日本のソローキンはだれ!?

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain いまや広く人気のソローキンだけど、似た作家というのはそれほど多くないね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 最近だと木下古栗だと思う!「Tシャツ」(『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』所収)読んだ時に「これソローキンじゃん!?!?」ってなったね。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain そうね、中原昌也、木下古栗の荒唐無稽さは、ソローキンの破滅的な起承転結につながるよね。あとは海外だとゴンブローヴィッチとか。でも実は、ソローキンは漫☆画太郎が好きな人がハマると思うんだよね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 漫☆画太郎!?嘘でしょ!?何その地球一周半してあえての漫☆画太郎みたいな選出。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 繰り返されるコピペメソッドと下品さがね・・・。


■松下さん、テルリア翻訳中!

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 本国では2013年に刊行された最新長編『テルリア』が、現在『早稲田文学』で翻訳連載中。翻訳者は引き続き、仕事が速いことでおなじみ松下隆志さん。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 連載読めてないんだよね。今度はどんなのなの。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain えっとね、舞台は、近未来のロシアとヨーロッパで、異形の者たちがあたりまえに存在する世界として描かれてるよ。『テルリア』はこの世界で流行中の新型麻薬<テルルの釘>をめぐる物語。<テルルの釘>は直接脳に打ち込むと願望が叶ったり秘められた能力が開花したりする一方、失敗すれば死に至るというもの。このガジェットがまさにソローキンだね(また打ち込み系。笑)。
各章ごとに違った文体、違った登場人物ということでソローキンの十八番、文体芸も期待できそう。

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain 各章で文体・・・頭に釘を・・・笑 期待たかまるね。

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 『テルリア』は2017年秋、河出書房新社から刊行予定ということで、めちゃくちゃ楽しみ。


■まとめ

f:id:yoiyoRu:20160119105254j:plain いやー今回の渦巻ヒッチハイクは愛に満ちていたね。やっぱり好きな作家を紹介するのが一番!
最後にソローキンになにか一言伝えたいことありますか?

f:id:yoiyoRu:20160119014853j:plain 結婚してください!!!!!

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